細菌とウイルス
細菌(通称バイ菌)とウイルスは全く違うものです。
抗生剤は細菌を死滅させる薬であり、ウイルスには全く効きません。
風邪の原因のほとんどはウイルスですので「風邪です。抗生剤を出しておきます」というのは大きな矛盾です。
医者であれば重々承知している事です。
では何故効くはずのない抗生剤を風邪で出すのが常識になっているのでしょうか。
理由その1
「風邪で弱っている時は、普段なら感染しない細菌に感染する可能性が高くなるから、二次感染予防のために抗生剤が必要だから」
研修医の時に教わった事です。
確かにそういう場合もあるかもしれませんが、まれでしかありません。それに細菌感染であっても、自分の力でほぼ治ります。
熱が長引くとか(ノドなどの)痛みが強いとか、なかなか自力で治り切らない場合に使用すれば遅くないと思います。
理由その2
「(脳に細菌が入り込んで命に関わる)細菌性髄膜炎の予防のため」
髄膜炎は熱が出た時点で脳に細菌が入り込んでいるため、内服の抗生剤ではどうしようもありません。
風邪と髄膜炎との違いは、意識障害があるかどうかです。初期の意識障害の判別は難しいところもありますが、それを感知するセンサーを磨く事が小児科医がまず獲得するべき能力です。
髄膜炎は予見できないため、早期発見するしかない病気です。そして髄膜炎となったら点滴の抗生剤を大量投与して徹底的に細菌を死滅させないと命に関わってきます。
抗生剤は使用すればする程、耐性菌という抗生剤が効かない細菌に進化してしまいます。
髄膜炎の時に抗生剤を効かせるためにも、それ以外での抗生剤投与は控えた方が良いと考えます。
理由その3
「薬を投与しないと、医者としての役割を果たしていないように、医者も患者さんも感じているから」
医者が診察でまずするべき事は、重症疾患かどうかを判定することです。全ての薬は体の負担になりますので、経過観察だけですむ状態であればその方がよいのです。
しかし、検査や投薬をしないと役割を果たしていないと医者は感じてしまうところがあります。
又患者さんの方も同様に、何もしてくれないと感じてしまいがちです。
そういう理由でやや過剰に投薬する傾向にあるのです。
理由その4
「他の医者から悪く思われないために、できるだけのことを最初からしておきたいと思っているから」
外来では経過を見ている間に悪化する事がありますが、悪化して他の医療機関にかかった場合、最初に診察した医者が悪く思われてしまいがちです。
後出しジャンケンと同じで、後で診る医者の方が絶対的に有利だからです。
それを避けるためにも、最初からやや過剰に投薬してしまう傾向にあるのです。
理由その5
「今までのやり方を変える事が難しいため」
ほとんどの場合は抗生剤を投与してもしなくても、自分の力で治ってくれます。又薬も分解したり排泄したりして、さしあたって大きな問題はなく過ぎていきます。
今までうまくいっている(ように見える)方法を変えることはなかなかできないのです。
他にも理由があるかもしれませんが、様々な理由により風邪には効果がないはずの抗生剤が出されています。
僕はほとんど抗生剤を出さずに診療をしていますが、その理由は次のとおりです。
(1)二次感染して困ったらその時に抗生剤を使用すれば遅くないから。
(2)内服の抗生剤で髄膜炎を予防できるとは考えていないから。
(3)医者は薬を処方するのが仕事ではないので、できるだけ薬の処方はしない方がよいと思っているから。
(4)他の医者に悪く言われてしまう事があってもしょうがないと諦めているから。
(5)そして、腸内細菌だけでなく口やノドにいる大切な細菌を抗生剤が破壊し、かえって風邪やアレルギーなどの病気になりやすいのではないかと疑っているから、です。
これだけたくさんの抗生剤を処方するのは、日本がダントツ1位だそうです。
日本の常識は世界の非常識、ということがあるのです。
少しずつでも体の負担の少ない治療法に向かえば嬉しいなと思います。
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- 大名 幸一 Koichi Omyo
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